公式サイトアーカイブより

伝説の始まりなんて、いつもこんなもの

発端はちょっとした思いつきから始まった。
「何かやりたい」「やらねばならない」という思いを持つ者同士が集まった時、「奇跡」というものは不思議ないたずらを人の人生に巻き起こす。しかし、それがそのあと二年間以上にわたる壮絶な闘いの幕開けになろうとは、誰一人、想像できなかった。「伝説」の始まりなど、おおむねそんなものだ。
私は音楽業界の末席にいる、一人の無名のミュージシャンに過ぎない。売れないミュージシャンにはありがちだが、いささか「器用貧乏」で、仕事が来ればジャンルにこだわらず何でも引き受けてしまうところがあり、商売としてはかなり損をしている部分があった。それでも自分にとっては「スキルアップ」につながると信じ、修行・鍛錬の時期だと受け止め、忍耐強く「時」を待っていた。
そして、私の記憶が正しければ、伝説の始まりは96年の春にさかのぼる。
当時、私が住んでいた街(東京都新宿区)に広告業界に身を置くW氏のマンションがあり、そこは、さまざまなジャンルのクリエイターたちのちょっとした溜まり場になっていた。本来、群れることを嫌う自分ではあったが、どういうわけか成り行きでそこに顔を出すようになっていた。その「サロン」についてはここでは詳しくは触れないが、そこで知り合ったピアニスト、関谷公仁子女史との出会いが、studio-expの起源と言える。
実は、女史との出会いは、厳密にはそれが初めてというわけではなかった。お互いに顔は知っていたし、噂も耳にしていた。お子さんがいて、ピアノの先生をしていて、某合唱団のピアノ伴奏者であるという程度のプロフィールも知っていた。ただ、本当に「面識がある」という程度のことで、自分とは何の共通点もなく、今だから正直に言ってしまえば「そのへんにいるただのおばさん」程度の認識しか私にはなかった。
気がついたら、私は半ば強引に彼女のDTMの家庭教師にされていたのだが、今思えば、何か「予感」があったのかもしれない。
紆余曲折を経て、翌97年6月、関谷女史の力を借りて正式にstudio-expは発足する。コンセプトは「conception」(当サイトの「Concept」のページ参照)にある通りだが、個人的な次元では「自分の音楽の発表の場は、自分で開拓したい」という想いがあった。
音楽という表現はさまざまな他の表現方法と結びつくと、何倍もの効果を発揮する。それを試してみたかった。自分が創る音楽の作風を考えは当然の発想だった。
安易に考えれば、ミュージカル等が向いているのだろうというのが自他共に認める当時の評価だったが、当時私はミュージカルが大嫌いだった。演劇も好きではない。ただ「物語」は大好きである。ステージという空間も嫌いではなかった。ステージを使って創り出す異空間…発想の出発点はそこから始まった。ひとつの物語を演劇とコンサートと映像で追っていく…ただ私が演劇が嫌いな理由のひとつは「貧乏臭い」からなので、決してそうならないようコスチュームやメイク、照明や舞台装置にも工夫を凝らしたいという希望は譲れないと思った。異空間というからには、ステージだけに目を向けていてはいけない。エントランスホールに入った瞬間から、訪れた人が異空間と感じなければならない。そこで考案されたのが、写真展だった。ストーリーは会場である東京芸術劇場がある池袋を舞台にした近未来SFということが決定していたので、来場者が自然に物語の世界に入っていけるよう、当時の池袋の若者の生態を追った写真展を同時開催した。
企画当時は、やがて訪れることになる金融崩壊や少年犯罪の多発などが起こる前で、それらを盛り込んだストーリーは、今思えば「予言書」のようだとも言える。その後、ドラマや映画等でも同じような設定のものが増えたことを考えれば、「読みは当たった」と言えるだろう。
果たして、前売り券は早い時期に完売し、追加公演も決定した。そして我々は、しばらくの期間、この奇跡に翻弄されることになる。

(チーフ・プロデューサー/久保田条実)

豪華スタッフ陣とキャストたち

海千山千の我々ではあったが、集まったスタッフ陣は豪華だった。
演出は、海外の演劇祭等でも有名な二瓶龍彦氏に依頼した。氏のファンタジックな演出は定評のあるところで、複雑なストーリーを斬新な演出で見応えのあるものにして頂けた。脚本は、当時新人賞を受賞したばかりの杉浦久幸氏に依頼した。

「作家としての杉浦さんについて」

男性作家にめずらしく女性をおもしろく描く作家である。女に余り母性を求めていないところが特異で残酷でもあり、役者が演じてみたいと心を動かされる要因の一つである。杉浦氏は、現実にどっぷりつかりながら、その中をはいずり回るような作風だと自分を語るが、私はその作品の奥に潜む、多重構造の「夢」を見逃すことができない。どこかにあるだろう本当に美しいものにあこがれて、あがき続ける私たちの作業はやはり逃げ居ると思わずにはいられない。見えないものを見せていこうとする作業のことである。公演の成功を祈ります。

(プログラムに掲載された、女優・渡辺えり子さんのメッセージ)

キャストも豪華である。主役陣のみの紹介になるが、深見梨加は、「美少女戦士セーラームーンシリーズ」やジュリア・ロバーツ、シャロン・ストーン、デミ・ムーア等の声優として活躍しており、歌手としてもアルバムをリリースしている。志賀泰伸はかつてジャニーズの「忍者」のメンバーの一人で、独立後は俳優として活動している。津田英佑は、この公演の後、ミュージカルスターとしてブレイクし、「蜘蛛女のキス」「レ・ミゼラブル」等に出演している。
コスチュームは成田久氏が、素材から全て創り上げ、独特のデザインと統一感は演出効果上大きな役割をもたらした。大山なをみ氏が担当したヘア・メークもコスチュームとの相乗効果で、独特の世界観を完成させた。

※2000年頃、公式サイトに掲載

  • このサイト中に出てくる人名については、全て敬称略とさせていただきます。
  • 資料提供:studio-exp(スタジオエクスプレス)