公式サイトアーカイブより

二年目のジンクス

「Stray sheep は眠らない」に続く第二回公演は、大方の予想通りかなりの「難産」だった。「Stray sheep は眠らない」が大成功を収め、反響も大きかっただけに、いろいろな意味でのプレッシャーもあった。「一回目以上のものをやらなければ」という思いが、プロデューサー陣の胸に鉛のように重く宿っていた。
演出家をはじめとするブレーンの総入れ替え、主役級キャストの出演交渉、制作費の確保……つぎつぎに降って湧く難題に加えて、最も大きな障害は、チーフプロデューサーでありJ’s Y2のリーダーである私自身のスケジュール調整がなかなか上手くいかなかったことだ。当時私は、公演一ヶ月前の十月に札幌・真駒内アイスアリーナで開催されるビッグ・イベントの音楽制作も引き受けており、J’s Y2のライヴやレコーディング、そしてプロモーションビデオの撮影の合間を縫って、毎週のように札幌に通っている有様だった。
しかも今回は脚本も私自身が手がけていた。早い時期からストーリーやテーマは決定しており、登場人物のキャラもある程度はキャストに合わせて設定していたので、創作上の苦労はそれほど感じなかったが、いかんせん時間との闘いだった。一幕ごとに書き上げてはメールやFAXでスタッフに送りつけ、少しずつ手直ししていくという作業の繰り返しになった。書き上がった幕の稽古を見ては次のシーンを書いていく…まるで生身の人間を使った贅沢なロールプレイングゲームである。
それでも、アシスタントプロデューサーである関谷女史のナイスフォローもあり、前回のノウハウを活かしながら、波乱を孕みつつも準備期間は進行していった。
今思えば、とにかく苦しい二年目だった。最初の時の苦しさとは違う種類の苦しみだった。一年目には「勢い」で出来たことが二年目には出来なかった。一年目に「やってのけてしまった」ことは二年目にも当然、期待される。いつしか周囲の人間が「久保田マジック」などと呼ぶようになっていた「奇跡の連続」が、本当は奇跡でも何でもないことは当の本人が一番よく分かっている。まして二年目は前回より規模も大きく、やるべきことも多い。それに私自身としては、一年目に荒削りだった部分を、とにかく「丁寧」に仕上げたいという気持ちがあった。
今だから明かせることだが、心理的な「迷い」も生じていた。いろいろな人間が大勢関わってくるようになればなるほど、「何か」を期待する周囲の思惑と自分の方向性にギャップを感じ、戸惑いを隠せなかった。当初、studio-expを発足したときの「目的」だけは常に自分に言い聞かせてはいたのだが、一部の周囲にとっては、それが「大義名分」に過ぎなくなっていることを何となく感じ取っていた。急成長を遂げているstudio-expに、何か得体の知れないものを期待し、あるいは便乗したいという「気」のようなものを感じるようになっていた。それはそれで、ある意味、何か新しいことをやり遂げようとする組織には必ずつきまとう宿命のようなものなのかもしれないが、その当時は、ただただ「息苦しさ」を感じていた。私はいつしか、この公演が終わったらしばらく休みたいと思うようになっていた。

(チーフ・プロデューサー/久保田条実)

光と影の芸術

「Under Shangri-La」は「光と影」のステージだ。大型モニター二台と巨大スクリーンを配したステージは極力シンプルに構成し、照明効果によって場面ごとの変化を作り上げるという演出手法を採った。一回目の「Stray sheep は眠らない」では映像部分は「オブジェ」的な存在だったが、「Under Shangri-La」においてはストーリーを構成する重要なパーツとなった。
ストーリー的には、「Stray sheep は眠らない」の続編的位置づけになるが、「Stray sheep は眠らない」が近未来SFであったのに対して、「Under Shangri-La」はファンタジック・アドベンチャーとなった。タイトルにある「Shanguri-La(シャングリラ)」とはJames Hiltonの小説に出てくるユートピアの地名である。
「Stray sheep は眠らない」から十数年後の世界を描いたこの物語は、登場人物も同じ人間が登場する。「アミ」を演じた深見梨加、「カイ」を演じた津田英佑、「ケン」を演じた小野秀則は「Stray sheep は眠らない」と同じ役柄で出演している。また「アミ」と「ケン」の娘として、「王様のブランチ」でおなじみの雨宮朋絵(二役)が新キャラを演じている。ただし続編的な部分は映像部分で進行し、唯一「リュウ」(佐渡山順久)だけが舞台の上で異次元の世界に迷い込んだ旅人を演じている。
「ケン」の小野は、二役でシャングリラの住人も演じているが、それ以外の舞台編の新しいキャラは、かつてセクシーアイドルとして一世を風靡した葉山レイコ、最近はテレビタレントとしても活躍する今井久美子、男装の麗人である穂村柳明、新人俳優の戸山大などが出演した。J’s Y2のYUIMAとYUENGもシャングリラの住人として出演している。今回の主演である葉山レイコは、ドラマや映画等の出演キャリアは多いものの舞台は今回が初めてで、最初は本人も不安がっていたが持ち前のプロ根性で厳しい稽古を乗り越えた。重要キャラを演じた今井久美子は、追加キャラとしてかなり公演が近くなってから急遽参加したのだが、さすがに舞台キャリアも豊富なだけあって、一流の演技を見せてくれた。

コスチュームに関しては、シャングリラの世界をよりファンタジックにするために、映像編をあえて普通の服にした。舞台編は新進デザイナーYOKO TOKITOが全て制作し、ヘアメイクは「Stray sheep は眠らない」時代から気心の知れている大山なをみが担当した。

サウンドは、前回同様、J’s Y2サウンドが随所に散りばめられている。ただし「Stray sheep は眠らない」との大きな違いは、J’s Y2の存在自体がストーリーの中に織り込まれているという点だ。彼らは「うたかたの世界」の吟遊詩人であるという点で、現実の世界とのイメージが一致している。
今回は、サウンドトラックCDの制作が早い時期から開始されていたこともあり、登場キャラクターそれぞれのテーマ曲が存在する。ただし今井久美子演じる「ヤン」のテーマと、結婚式の場面で使われた曲がCD収録に間に合わなかったのは、曲自体の評判が高かっただけに惜しまれてならない。

※2000年頃、公式サイトに掲載

  • このサイト中に出てくる人名については、全て敬称略とさせていただきます。
  • 資料提供:studio-exp(スタジオエクスプレス)